「わずか4%」    5月13日付朝日新聞「天声人語」より抜粋・転載

 新刊『百のうた 千の想(おも)い』には、戦後すぐに庶民が詠んだ「平和百人一首」が収められている。平和や、働く喜びをうたった2万数千首から選ばれたという。基幹産業だった炭鉱の歌が目立つという。

 

〈新(あらた)なる国興さむと二千尺坑底ふかく鶴嘴(つるはし)ふるふ〉

 

〈出坑をまちてゐたりと妻の呼ぶ声は明るし麦田のなかに〉

 「黒いダイヤ」ともてはやされ復興を支えた。だが石油に主役を奪われ、衰退したのは周知の歴史である。その国内炭が、時ならぬ光を浴びている。原油の高騰につられて、海外炭の値上がりが止まらないからだ。日々の生活からは消えたが、工業用になくてはならない。国内で年に1億7千万トンが煙になっている。炭鉱が残る北海道では、新たな鉱区が久々に開発されるそうだ。地元は活況に沸いている。原油価格をはね上げる投機マネーの嵐が、追い風をもたらした形といえる

 「平和百人一首」には、農耕の歌も多い。

 

〈刈入れも事なく終へて爐(ろ)を囲む秋の長夜は楽しかりけり〉

 米は「銀シャリ」と尊ばれた。だが、こちらも近年は冷遇されてきた。その風向きが、輸入小麦の高騰で少し変わりつつある。米粉の増産支援に、政府が乗り出すそうだ。小麦の代わりに、パンやめんの原材料に使うのだという。米も石炭も、国の「ピンチ」で光が当たるのは、思えば皮肉である。食糧の自給率39%、エネルギーはわずか4%。心細く肥満したニッポンが、60年前の歌に照らされるように浮かび上がる。


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